長沢慎一郎
Mary Had a Little Lamb
定価:6,000円+税
Art Direction:林 規章
Book Design:乗田菜々美
発行:赤々舎
Size:H224mm x W343mm
Page:113 pages
Binding:Softcover with slipcase
Published in October 2024
ISBN:978-4-86541-193-5
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小笠原の壕、その空洞に見る秘められた戦後史
前作『The Bonin Islanders』(2021年)において、小笠原の先住民がもつアイデンティティを探り、複雑な歴史の糸を提示した長沢慎一郎。
2008年から小笠原に通いつづけ、島の人々や場所との交流を深めるなかで、第二次世界大戦後の米軍占領期間(1945~1968)の影響や痕跡に目を向けるようになった。
「米軍占領下の父島には『メリーさんの羊』と名付けられた核弾頭が配備されていた」
本書の冒頭に記された言葉は、アメリカの童謡「Mary Had a Little Lamb」(メリーさんの羊)に由来する名をもつ核弾頭がこの島に存在したとされることを告げ、山中の壕の内部へとカメラは歩を進める。
ある壕の奥、闇は深まり、そこには白い塗装で覆われたもうひとつの壕が現れた。
腐食した重々しい鉄扉を開け、その密室の空洞に光を当てる。
銅板で覆われた壁や天井。わずかに残る金具や椅子。
一歩ごとに照らし出される異様な質感と同時に、内部の空洞が迫ってくる。
ないはずの核が置かれた場所。今はそれが不在である空間を写した写真は、失われた時間と記憶の圧倒されるような量感を湛えている。
ページを進める合間に不意に現れる小笠原の光に満ちた海。巻末の、壕を抜けた向こうに見える椰子の木。
長い時間を彷徨った果てに、「メリーさんの羊」が異なる相貌で立ち現れる。
《第49回木村伊兵衛写真賞 受賞作品》
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"童謡の「メリーさんの羊」 は、戦争の対極にあるものを歌っている。 なぜ子羊はそんなにメリーが好きなのかとたずねる子どもたちに対し、先生が「メリーも子羊のことが大好きだから」と答えているように、この詩は愛と互恵性についての歌である (詩の原文ではこのあと「心やさしい動物は 見えない絆で結ばれて 呼べばいつでもついて来る いつも優しくしていれば。」と続く)。つまり、「メリーさんの羊」と名付けられた核兵器貯蔵施設が小笠原にあったというローカルナレッジは、核兵器に 「ファットマン」 や「リトルボーイ」などという名前が気まぐれにつけられることがあるように、愛を歌った童謡にちなんだ名前が核兵器貯蔵施設につけられることもある、だから物事は必ずしも見たままのものとは限らない、という別のローカルナレッジも表している。この力強い写真集には、この矛盾と、矛盾が残した亡霊を内包しているのである。"
── デイビッド・オド(ジョージア美術館 館長)
本書寄稿「戦争の対極にあるもの」より抜粋
"今日、 もしもあらゆるものが写真として存在させられるとするのならば、失われるはずだった場所の記憶、 埋もれるはずだった父島の奥深い山の中の壕の密室、ないはずの存在を求め、それらは場所の記憶として写真に宿された。「Mary Had a Little Lamb」がここにあったこと。「Mary Had a Little Lamb」が、この場所からなくなったこと。 しかし 「Mary Had a Little Lamb」はこの世界のどこかに消えたわけではない。 長沢の写真は、いまを生きるわれわれに問いかける。これらの写真は、これからを生きるあなたの未来に向けて記憶される。 われわれは、この場所を忘れ去ろうとしていた。しかし、もうこの場所を忘れることなどできない。
── 田根 剛(建築家 Atelier Tsuyoshi Tane Architects代表)
本書寄稿「忘れられない場所」より抜粋
赤々舎HPより引用
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