2025年6月27日[金]－7月27日[日]
時間：13:00-19:00[水・木・金・土・日]
休廊：月・火

［作家ステートメント］

犬と人とのあいだにあるもの。そこには、見えない地形のようなものが静かに広がっています。それは、物理的な距離にとどまらず、制度や文化が形づくった関係のありようであり、あるいは言葉にならない肌ざわりのようなものなのかもしれません。

犬はいつも私たちの「そば」にいます。しかし、その「そば」とは、果たしてどれほど深く測られたことがあるのでしょうか。その距離感は、どれほど確かなものなのでしょうか。

この作品には、さまざまな視点の断片が集まっています。異なる場所、異なる関係性の中にいる犬たち。私自身の飼い犬。子どもたちとのワークショップを通じて生まれた粘土の犬。目を閉じ、手の感覚だけで形づくられたそれは、記憶の中の犬であり、触れたときの感触であり、まだ見たことのない形の中に、それでも確かに「犬」としか言いようのない何かが息づいています。犬のブロンズ像が立つ風景には、人間が犬という存在をいかに解釈し、形に留めようとしてきたのか、そのまなざしがにじみ出ています。ドッグランのフェンスやルールを記した看板、決められた動線は、制度としての自由や関係性のあり方を静かに問いかけているようにも思えます。これらの断片は、すべて一つの問いをめぐって撮影されてきました。

犬とは何か。そこには、まだ語られていない何かが息をひそめてひっそりと存在しているのかもしれません。彼らは、私たちの社会や感覚の中で、どのように扱われ、どのように見られているのでしょうか。そのあり方は、国や地域ごとの制度や文化として、あるいは「しつけ」やマナーのような、もっと身近な規範としても現れています。「わかった」と思ったその瞬間に、ふと見失われる距離感。そこには、親密さと境界が常に共存し、揺れ動き続けています。その前で、私たちはどのように在るべきなのでしょうか。

人間社会におけるさまざまな違いがちっぽけに思えるほど、私たちは犬と異なっています。視覚の構造、嗅覚の世界、時間の感覚、死の捉え方、そのすべてが異なるかもしれません。それでも、その違いを保ったまま1万年以上の時をともに過ごしてきたという事実があります。そこにあるものとは、いったい何なのでしょうか。